Special STORY

馬場馬術や馬にまつわること、中村選手のことなど不定期でお届けしています。

馬上から見る風景

Vol.

5

「馬に乗った時、後ろから馬の耳と耳の間の延長線上を見ています」。

中村選手は、いつも馬に乗る時「視線は上げ過ぎても下げ過ぎてもいけない」と、馬の耳を基準に風景を見るようにしているそうです。乗馬を一度もしたことがない人の場合、はじめて馬に乗った時、世界が少し違って見える気がする、ということですが、それは馬の上だと視線がずいぶん高くなるからでしょう。目線は地上から2M以上。その高さでスピーディに変化する景色を見れば、きっと新鮮な驚きがあるのだと思います。このような馬上からの風景をすっかり見慣れている中村選手にとっては、それは平凡な風景でしかなく、何も考えることなく夢中で心地よく馬に揺られているのかと思うと、実はそうではないようです。

 

中村選手は「いつも何か考えています。今日は緑がきれいだなあ、というようなことも」と言います。普通の人間が、広い馬場で馬を歩かせている人を見るとき、細かいことは何も考えず、おおらかに頭の中はひたすら静かでただ風だけを感じ、すっきりとしているだろうなと思いがちなのですが、どうやら違うみたいですね。

 

でもあれこれ考えながら乗るのは練習するときだけで、競技が始まれば集中して夢中になっているはずと思うのですが、中村選手は「競技中もいつも何か考えています」と言いました。でも「それは演技の展開のことだったり」。

 

なるほどクールに次の動きを考えているわけですね。さらに中村選手は言いました。「逆に集中しすぎてしまったりすると、馬のことが客観的に見られなくなるのでよくないですね。何かを考えられている間は、冷静だということだと思います。その方が落ち着いてやれます。観客のみなさんの顔も見えていますよ。ときにはギャラリーがたくさんいる場所でシャッター音が気になったりすることもあります。馬はこわがりな動物なので。でも、それはそれで自分はいま冷静なんだと確認しているところもありますね」。

 

馬上からの風景を見ながら、冷静に次の展開について考えられること。つまり余裕があることは競技において重要なことなのでしょう。

 

 

馬術は芸術

Vol.

4

乗馬をするとき、馬の上では常にバランスよく、正しい姿勢をキープすることが大切であるといわれます。馬は臆病で、繊細。騎乗者の動きに敏感なので、馬の背中でぽんぽん弾んだり、ぐらぐら揺れたりすると馬が負担に感じるそうです。馬場馬術とは、馬上で正しい姿勢をとることを厳しく求められるスポーツです。ジャッジが審査するのは、美しい姿勢であり、動き。

 

中村選手は「馬場馬術は芸術だと思う」と言います。「たとえば4分半の持ち時間があれば、その時間は自分と馬だけが演技をします。ダンスの発表会などをイメージすると、ステージ上にたったひとりで4分半演技をする、というのはあまりないでしょう?」

 

中村選手は、馬場馬術の競技をする馬場をステージととらえていました。「馬場馬術は魅せる競技だと思うんです。見せる、ではなく魅了する、の魅せる」そのためには「何より、美しい姿勢が重要だと思います。たとえ、大観衆がいなかったとしても、この4分半は、貸し切りで自分の演技を魅せるぞ、この4分半をカッコよくやりたい、と思っています」

 

全国屈指の姿勢が美しい騎手として注目されている中村選手ですが、その美しい姿勢を保つために馬場以外でも、努力していることがあるそうです。中村選手が言うには、「鏡です。いつも鏡で姿勢を見ています。騎乗して鏡を見ると、つい自分ではなく馬を見てしまうと思うんですが、なるべく自分の姿勢を見るようにしています。そして馬に乗っていないときにも、鏡でいつでも姿勢をチェックしています。鏡を見ることで自分の意識も高まります」また「世界で一番美しい動物に乗るのだから、きれいに乗るのがあたりまえ、と考えています」と。このような気持ちをずっと持ち続け、いつでも美しい姿勢をつくるための工夫をしているのですね。

 

中村選手は「上手な人は見ていて、きれい」だと言います。「馬場馬術というのは採点競技です。馬を見ようと思えば、自然に騎手が見える。つまり騎手と馬がマッチして美しく一体化していなければならないんです」。

 

馬場馬術の、常歩、速歩、駈歩(=なみあし、はやあし、かけあし)など基本の運動をする際にいちばん意識しなければならない姿勢。中村選手は「肩甲骨と肩甲骨を寄せる感じで背筋を伸ばしてみてください。これが基本の姿勢になります」そう言って背筋を伸ばしました。長い年月、このようにぴんと伸びた背筋を保つことに強い意識とプライドを持って練習してきた中村選手。「なるべく上半身は動かないようにしています」。ストイックな練習法で、一生懸命に、地道に、コツコツと努力してきた道のりが想像できます。「たとえ馬術のことをよく知らない、わからないという人が見ても。いつ誰が見ても、きれい。いつでもシャッターチャンスでなければならないと思っています」と言う言葉に、馬術の美しさに対するこだわりの強さを感じました。

 

シュタールジ-クを彩る楽しい動物たち。

Vol.

3

奈良県の大自然が広がる地域の中に2008年に設立された馬術クラブが、中村公子選手が経営している「シュタールジ-ク」です。そこには、もちろんたくさんの馬が生活しているのですが、実は馬以外にも多くの動物たちを見ることができます。

小さい頃から何より馬が好き、そして動物が大好きで選んだ大学・学部なのだと思います。だからこそ馬以外の動物たちにも激しく心を動かされるようです。これまで、捨てられていた犬、飼い主のいない猫などを次々と拾っているうちに、シュタールジ-クには馬以外の動物たちが増え、現在の動物ランドのような状況になったのだとか。そして動物たちは種類を超えて楽しくいつもそこで遊んだり、ごはんを食べたりしています。

 

シュタールジ-クにいる動物たちをじっと見ていると、一匹一匹ユニークで、とても楽しいキャラクターだということがわかります。

たとえば、誰かが投げた石を取りに行き、ボールのように拾ってくわえてくるのが好きな犬。縦長の石をギザギザの歯でわざわざ縦にくわえてくるのが特長なのだとか。他にも、眉毛のような模様のある猫やブロンズ像のようにじっとしている猫など、濃いキャラクターの動物たちがたくさんいて、シュタールジ-クはいつもにぎやかだそうです。

 

中村選手は、「なにか落ち込むようなことがあると、厩舎に入って馬の横に座るんです」と言っています。馬も何かを察するのか、中村選手に甘えるように頬をすり寄せたり、顔をのぞきこんだり。馬が人間と心が交流しているようなしぐさを見せるのが印象的です。その穏やかな時間も、中村選手が練習するエネルギーになっているのだと思いますが、同じように他の動物たちの愛らしさもまた中村選手の心を癒しているような気がします。

フィギアスケートのように観客も息を飲む。

Vol.

2

馬術競技についてまったく知らない方の場合、馬術というものに対して、ヨーロッパの映画などでよく見る障害物を馬がカッコよく飛び越えるシーンをイメージとして持っていらっしゃるかもしれません。でも実はあれは障害馬術競技という馬術競技のひとつなのです。馬術競技というのは、「馬場馬術」「障害馬術」「総合馬術」「エンデュランス」に分かれています。

 

中村公子選手がずっと関わっているのはそのうちの「馬場馬術」です。馬場馬術競技は、室内・野外とも一定の馬場の中で行われるのですが、1騎ずつ、華麗な演技を披露するスポーツです。馬場は20×60mの長方形。その中で行う「常歩・速歩・駈歩=なみあし、はやあし、かけあし」が演技の基本となります。馬場の周辺にはアルファベットが印刷されている標記(=マーカー)が置かれおり、これを基準として演技をします。「A点からB点まで跳ねるようなパッサージュで。そこからは速歩。そして、あのD点で一回転するピルエット」と言う風に。

 

このように演技の内容がすべて決められているものを「規定演技」といいます。パッサージュ、ピルエットの他にも、脚を左右交差するハーフパス、足踏みをするピアッフェ、歩きながら脚を左右入れ替えるフライングチェンジなど、さまざまな演技があり、組み合せることが可能です。また、規定演技の他に「フリースタイル」「キュア」と呼ばれる音楽に合わせる自由演技もあります。

 

馬術馬場における規定演技において、ちょっとしたミスも許されないのは、フィギュアスケートのショートプログラムと似ていますね。中村選手もそのように実感しているようで「フィギアもジャンプの回転が足らなければ減点されますよね、そういう感じです」と言います。フィギアスケートのショートプログラムでは以前、きれいな曲線を氷上にミスなく描くコンパルソリなど決められたルールがありました。馬場馬術の規定演技にも、それと同じように繊細な動きを求められるのです。中村選手の「以前、馬がブレないようにずいぶん長く息を止めたまま馬場を歩いたことがあります」というお話を聞くと、フィギアスケートの選手とそれを見つめる大観衆と同じような緊張感のあるスポーツなのだなと理解できます。

 

中村選手は「馬場馬術のことをよく知らない、わからない人が見ても、きれいと思われること。それは大きいことです。馬場馬術はスポーツだけれども、芸術だと思っています」と馬場馬術の美しさに対する想いを語ります。フィギアスケートのリンクで繰り広げられる華麗なストーリーと馬場馬術の美しい演技。観客は、このふたつのスポーツを意識しながら、馬場での大会競技を観るのも楽しいかもしれませんね。

Vol.

1

トラディショナルで美しい競技、

ドレッサージュ。

馬場馬術とは、どんなスポーツかご存知ですか。

 

馬場馬術(ばばばじゅつ)=ドレッサージュ (Dressage) は、馬術競技のひとつです。選手の年齢層は幅広く、また、オリンピックでは男女が同じステージで競えるただひとつの種目です。ドレッサージュをシンプルに説明すると、馬をどれほど正確に美しく運動させられるかを競う競技。決められた四角い馬場の中において、ルールに従い高等馬術を演じます。時間はたとえば4分半。それを複数のジャッジが採点、その合計点数で順位が決定します。

 

中村選手は「いちばん美しいと思える動物に乗るのだから、きれいに演技がしたいといつも思っている」そうで、試合をひとつの発表会、舞台ととらえ、美しさへの強い意識を持って常に練習しているのだとか。「でも技術的に上手なのと試合で高得点を得て勝つこととは違うんです」と言います。やはり馬は動物ですから、その日のコンディションで、大きく左右される繊細な競技なのですね。

 

騎手は馬を愛し、大切に手入れをし、そして懸命にトレーニングする。それが競技での演技につながっていきます。跳ねるように歩くパッサージュ。一回転するピルエット、足踏み運動であるピアッフェ。なめらかな毛並み。美しい筋肉。躍動感。日々の努力が、競技での高得点になるのです。

 

馬場馬術は歴史と伝統のある馬術競技ですから、ファッションも見どころ。選手全員がヨーロッパの上流階級を思わせるフォーマル・ウェアを着ます。馬もおしゃれにデコレーション。馬につける「イヤーネットに関してもセンスが出ると思う」と中村選手は言い、ご本人は「いつも(馬の額部分にかける)額革にはキラキラしたものを選ぶので、イヤーネットに関してはシンプルに馬の色にしています。夏は白ですね」と、かなりのこだわりぶりが伺えます。

 

もちろん、騎手のファッションに関しても。中村選手は好んで高さのあるシルクハットを着用しています。「20歳以下はかぶることができないシルクハットが好き。でも、最近では安全性の面でヨーロッパでも多くの選手がヘルメットになってきました。もしかするとそのうちシルクハットは禁止になるかも」と少し残念そうに言います。

 

馬の美しさ、躍動感。そしてファッション。近くで実際に見る馬場馬術競技は優雅で、魅了されるひとも多いはず。一度、ドレッサージュの大会を観に出かけてはいかがでしょうか。

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Stall SIEG

 

「馬に乗った時、後ろから馬の耳と

耳の間の延長線上を見ています」。

「馬に乗った時、後ろから馬の耳と

耳の間の延長線上を見ています」。

「馬に乗った時、後ろから馬の耳と

耳の間の延長線上を見ています」。

シュタールジ-クを彩る楽しい動物たち。